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 vol2 岩越真一先生(放射線医学 助教)

 Research Story, vol.2
奈良県立医科大学 放射線医学 助教 岩越真一先生
【Radiology】2020; 294:455-463

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本年、放射線分野においてトップクラスのジャーナルである【Radiology】(Impact Factor:7.931)に岩越先生の論文が掲載されました。インタビューでは、論文の概要をご紹介いただくと同時に、今後の抱負なども語っていただきました。また、米国へ留学された際のお話もお伺いしています。

 


①今回の論文の骨子について、専門領域外の方でも理解できるようにご紹介いただけますか。

→今回は、大動脈解離に対するステントグラフト内挿術の血行動態に関する論文です。Stanford B型の大動脈解離に対しては、胸部大動脈ステントグラフ治療(TEVAR)により真腔血流の増加、偽腔血流の減少がもたされることで治療がなされます。一方、解離により偽腔から分枝する腹部分枝(腹腔動脈、上腸間膜動脈、腎動脈など)の血流は、TEVAR後に減少することが予想されていますが、これまで科学的なデータは取られてきませんでした。そこで我々は、TEVAR後の腹部分枝の自然治癒や腎動脈の状態と腎動脈還流の代替指標として腎容積の関係を、多施設共同研究(20施設、209症例)の協力を得て評価を行いました。その結果、真腔供血の分枝では63%が自然治癒しますが、狭窄度が50%以上となる分枝や偽腔供血の分枝では、腎臓容積の減少が示唆されることが分かりました。

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           (岩越先生)

                                                                                                          
②この研究が評価されたポイントをご自身はどのように考えておられるでしょうか。

→腹部分枝の血流に着目した点、また、同一人物の左右の腎の比較をするという評価方法が評価されたものと考えています。同一人物の左右腎の評価は、あらゆる交絡因子を除外することが出来るため、有用と考えました。

 

③本研究を進められた動機、またこの分野を専攻された経緯についてお聞かせください。

→もともと、カテーテル治療に興味がありました。自分が目指す治療は、同じ病気になった時に自分が受けたい治療でもあることが大事だと思っています。私自身も痛いことは苦手なので、カテーテルという低侵襲の治療に魅力を感じました(笑)。奈良県立医科大学に着任した理由もIVRです。本学は、IVRのさきがけ機関の1つです。その由緒ある本学でステントグラフト術にかかわることを希望して飛び込みました。


④ この研究を進めるにあたって特に苦労されたことがあれば教えてください。

→多施設共同研究ですので、研究の協力をお願いすることが大変でした。学会などで直接お目にかかる機会を活用して、一施設一施設ずつ協力を取り付けていきました。治療後の調査であったことは、協力を得やすい条件であったかと思います。ただ、各研究機関において倫理審査委員会の承認を得てもらう必要があり、そのプロセスで時間がかかる場合もありました。このような時は研究が思うように進まない事もありましたが、こちらの依頼に対し、快く協力してくださった先生方が多くありがたいと思っています。また、医学部では、データの解析方法等について学ぶ機会はないため、今回はデータ解析にあたっては、臨床研究センターの井上隆先生に大変お世話になりました。何度もデータをやり取りして頂き、感謝しています。


⑤先生は、米国スタンフォード大学へ留学を経験されていますね。文化の違いを含めて特に印象深かったことあるいは影響を受けたことがあればご紹介いただけますか。


→IVRの手技は、日本人の方がとても器用だと思いました。留学中に知り合った米国在住の日本人の研究者とのネットワークが広がったことは今後の大きな財産になると思います。もちろん米国の研究者との関係も同様ですが、これらのネットワークは今後の研究活動に良い結果をもたらしてくれると思います。また、アメリカにおける仕事と家庭に対する価値観が日本とは異なることも刺激になりました。オンとオフが明確で、やるべき仕事をきっちりやって、オフで充実した時間を過ごす。私自身もアメリカで子供が生まれたばかりだったのですが、一緒に過ごす時間が取れたのは良かったと思っています。

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                                                             (インタビューの様子)

 
今後の先生の目標についてお伺いしてもよろしいでしょうか。研究内容等については差支えのない範囲でお話頂ければと思います。


→動脈瘤や動脈瘤に対する血管内治療に関した研究を引き続きしていきたいと思います。実際の治療にあたり疑問に思ったことを中心に研究を進めたいです。そして、それを実際の治療に活かす。そのサイクルの中で、日本で最高の治療が行える力量をつけたいと思っています。

⑦本研究を進めるにあたっての謝辞があればご紹介ください。

→吉川病院長をはじめ、放射線医学の諸先輩方、またデータ統計でお世話になった臨床研究センターの井上先生、画像評価を手伝ってくれた井上技師、そして共同研究にご協力いただいたすべての先生方に、感謝を申し上げたいと思います。

以上

(インタビュー後記)
最高の治療を行う医師になりたい。そのために、科学的裏付けのあるデータ解析を行う。その結果を基に治療方針を定め、最高の治療を行う。このようにお話になる先生のぶれない姿勢が大変印象的でした。臨床と研究の両立、それらが両輪となって更に高いレベルへとまい進していかれることを楽しみにしたいと思います。もし、治療が必要になった時は、ぜひ先生のところへ伺いたいと思いました。

     (インタビュアー : 研究力向上支援センター 特命教授・URA 木村千恵子)

 

【Radiology】:北米放射線学会(RSNA、Radiological Society of North America)が発行する放射線分野においてトップクラスのジャーナルである。(外部サイトへリンク)

【岩越先生の論文はこちら】: 【Radiology】2020; 294:455-463(外部サイトへリンク)

 

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