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 第21回基礎医学教育協議会合同講演会(CASE XXI)

奈良県立医科大学 生化学講座   教授 中村修平先生
奈良県立医科大学 解剖学第一講座 教授 井上浩一先生        

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        中村修平先生           井上浩一先生

 本講演会は、基礎医学教育協議会の主催で年に2回開催され、外部講師による最先端のご講演や、学内の学術交流を意図した学内の講師によるご講演を行っています。21回目を迎えた今回は、今年度着任されたお二人の新任教授である、生化学講座 教授 中村修平先生と解剖学第一講座 教授 井上浩一先生が登壇されました。気温が低くとても寒い日でしたが、基礎医学講座だけでなく臨床医学講座の先生や学生さんも含め50人以上が集まりご講演に耳を傾けました。多くの質問があり、熱気にあふれた大変活発な会となりました。

 

開催日時  :  令和5年12月21日(木) 17:00~18:30
開催場所  :  基礎医学棟 第1講義室

講演者1  :  生化学講座 教授 中村修平 先生
演   題    : 「オートファジー・リソソーム分解系の制御機構と老化における役割」

講演者2  :  解剖学第一講座 教授 井上浩一 先生
演   題    : 「光遺伝学的アプローチの諸臓器への応用」

 

■お二人の講演内容とご研究についてのサマリーを以下にご紹介します。

 

【 1 】生化学講座 教授 中村修平 先生

ご略歴
2003年    北海道大学理学部生物学科 卒業
2008年    北海道大学大学院理学研究科生物科学専攻博士課程 修了:博士(理学)
 <2005~2008年  日本学術振興会 特別研究員(DC1)>
2008年    基礎生物学研究所 博士研究員
2011年    Max Planck Institute for Biology of Ageing ポスドク
 <2011〜2013年 日本学術振興会 海外特別研究員>
 <2013〜2015年 Marie Curie International Incoming Fellowship>
2016年    大阪大学大学院医学系研究科 遺伝学教室 助教
2018年    大阪大学 高等共創研究院 独立准教授
2023年8月〜  奈良県立医科大学 医学部医学科 生化学講座 教授

■中村修平先生のご講演内容と研究サマリー

・中村先生は老化の普遍原理をオートファジーの観点から解明しようと研究されています。

 オートファジーは日本語では自食作用の字があてられており、細胞の中で起こる様々な生体分子の分解作用を意味します。オートファジーのメカニズム解明に大きな役割を果たされた大隅良典先生(現 東京工業大学栄誉教授)に対して2016年にノーベル生理学・医学賞が授与されたことは記憶に新しい出来事です。中村先生の前任地である大阪大学大学院医学研究科遺伝学教室の吉森保教授は、大隅先生と共に出芽酵母で見つかっていたオートファジー遺伝子が動物細胞にも存在することを発見し、オートファジー研究を大きく発展させてきた人です。オートファジーの主な役割として、細胞内成分の分解・リサイクルによる栄養確保、平常時における細胞内の新陳代謝(代謝回転)、有害物質の隔離除去が挙げられます。中村先生は、このオートファジーが老化制御に関与する成果を次々と発表されてきました。2023年8月の本学着任後からすでに3つの論文成果についてプレスリリースを発表されてきました(PNAS, 2023*1EMBO Rep, 2023*2PNAS, 2024*3)。誰もが老いるわけですが、老化が進むと多くの疾患にかかりやすくなることが知られています。老化をうまくコントロールできれば、病気にかからず健康寿命を延ばすことが期待されます。DSC06505trhpNS.jpg世界の研究から、老化と関連する要因が明らかになりつつありますが、それらは一見ばらばらでどれも関係がないように見えます。中村先生は、これらの要因が「オートファジー」に収束することをその分子基盤とともに明らかにしてきました。その中でも中村先生が注目しているのがルビコンです。ルビコンはオートファジーにブレーキをかける抑制因子で、老化が進むと細胞内のルビコン量が増えるためオートファジー機能が低下します。驚くべきことは、細胞でルビコン量を減らした線虫、ショウジョウバエ、マウスといった動物は寿命が延びるという発見です。ヒトでも同様の効果が期待でき、健康長寿への実現に向けた本学での研究の柱の1つとなるものです。

 中村先生がもう一つ注目しているのがリソソームです。リソソームは細胞小器官(オルガネラ)の1つで、酸性環境の内部には60種類以上の加水分解酵素が入っており、あらゆる生体分子を分解します。オートファジーで形成されたオートファゴソームも最終的にリソソームと融合し、その内容物が消化されます。これらの酵素の異常が多彩な症状を示すライソゾーム(リソソームと同じ意味)病の原因であることが知られていましたが、近年の研究からリソソームががんや神経変性疾患、また老化と関係している証拠が出てきています。中村先生は、生体内外の様々な要因で傷ついた損傷リソソームがオートファジーによって修復されることを見出しました。また、この修復機構がうまく働かないと、損傷リソソームが細胞内にたまり、線虫の寿命が短くなることを発見しました。リソソーム損傷応答の分子メカニズムの研究を推し進めることで、「ヒトがなぜ老いるのか」への答えを見つけようとされています。

 また、中村先生は2021年から⽂部科学省 学術変⾰領域研究B「ポストリソソーム⽣物学:分解の場から始まる⾼次⽣命現象の理解」の領域代表者として、若い研究者の仲間と共に「ポストリソソーム⽣物学」創成に向けた研究を展開されており、こちらからも目が離せません(領域ホームページ:https://post-lysosome.jp/)。

奈良県立医科大学 生化学講座ホームページ (https://bioch.naramed-u.ac.jp)

プレスリリースサイトリンク
*1:https://www.naramed-u.ac.jp/university/kenkyu-sangakukan/oshirase/r5nendo/autophagy.html
*2:https://www.naramed-u.ac.jp/university/kenkyu-sangakukan/oshirase/r5nendo/microautophagy.html
*3:https://www.naramed-u.ac.jp/university/kenkyu-sangakukan/oshirase/r5nendo/tfeb.html


 

【 2 】解剖学第一講座 教授 井上浩一 先生

ご略歴
1996年    名古屋市立大学医学部医学科卒業  医師免許取得
2002年    東京医科歯科大学大学院医学系研究科博士課程 修了 博士(医学)取得
2002年    浜松医科大学医学部生理学第一講座 助手
2006年    Legacy Research Institute (米国) 博士研究員
2009年    浜松医科大学医学部生理学第一講座 助教
2010年    浜松医科大学医学部生理学第一講座 准教授
2012年    Morehouse School of Medicine (米国) Assistant Professor
2015年    名古屋市立大学医学研究科統合解剖学分野 助教/講師
2017年    名古屋市立大学医学研究科統合解剖学分野 准教授
2023年8月〜  奈良県立医科大学医学部解剖学第一講座 教授

■井上浩一先生のご講演内容と研究サマリー

・井上先生は血管系、神経系をはじめとする多彩な研究経験と研究手法を武器に、新しい治療技術の開発を目指されています。

 井上先生は医師免許取得後、東京医科歯科大学で博士課程に進学され、出芽酵母を使ったRNAトランスポートの研究を皮切りに、血管内皮細胞におけるTNFαのシグナル伝達経路の解析、学位取得後は、浜松医科大学の生理学講座の教員として、電気生理学と分子生物学を駆使し神経回路の形成機構について研究されました。その後は、研究の場をアメリカに移し、Legacy Research InstituteのZhigang Xiong博士の研究室で、イオンチャンネルをキーワードとした「脳梗塞による虚血時神経細胞障害」と「血管内皮細胞におけるTRPM7の役割」について二刀流で研究を進められました。一旦日本に戻られたものの、Morehouse School of Medicineに異動したXiong博士からの求めに応じ、研究主催者DSC06569trhpIK.jpg(PI)として再度アメリカに渡られ、研究を進めていくと同時に医学生の脳実習やグラント獲得などの研究室運営を経験されました。この間、「虚血時神経障害」に関与する酸感受性イオンチャンネルASIC1分子の機能解析や、TRPM7イオンチャンネルが持つ虚血時神経障害における役割を解析されました。また、ASIC1やTRPM7の制御因子と予想されたSGK1キナーゼが、実際にはグルタミン酸受容体を介して虚血時神経障害に関与していることを明らかにされました。一方、「血管内皮細胞におけるTRPM7の役割」において、TRPM7の発現レベルを血管内皮細胞内で減らした際にERKキナーゼ依存的な細胞増殖や一酸化窒素(NO)産生が増強することを発見されました。井上先生のグループはすでに神経細胞でTRPM7の生産量を減らすと、虚血時細胞障害を減らすことができることも見出しており、脳梗塞を治療する新たな戦略標的としてTRPM7に注目しています。最近は、イオンチャンネルの活性を光によってコントロールできる光遺伝学的手法を導入し、血管内皮細胞内のカルシウムイオンの役割について新たな知見を蓄積しつつあります。今回のご講演では、先生が注目されているこの光遺伝学的手法も取り上げて、様々な成果についてご教示くださいました。また、光遺伝学的手法を生体での治療に応用する研究にも着手されており、本学での臨床分野の先生との共同研究を積極的に推進したいとおっしゃっています。

 井上先生はご研究に加え解剖学講座の教授として、医学の発展を思いご献体くださる篤志を医師の高度な手術手技の訓練・習得と結び付けられるよう本学での体制確立のためご尽力されています。医療技術の急速な進歩による先進的で高度な外科的手術手技を確立するためにご献体を用いた手術手技の研究・修練の必要性が高まっています。国内においては、日本外科学会・日本解剖学会による「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」が発表され、厚生労働省による「実践的な手術手技向上研修事業」も開始されています。本学においても、ご献体者の篤志をくんで社会福祉のさらなる発展に寄与すべく、医師の安全な外科手術の技術習得を目指した修練の場を適正に提供できる準備を井上先生が進められており、医療技術の高度化、医療安全への貢献が期待されます。

➢奈良県立医科大学 解剖学第一講座ホームページ (https://1ana.naramed-u.ac.jp/)

 

 以上

(文責)研究力向上支援センター特命教授・URA 上村陽一郎
URA 垣脇成光

 

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