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中村修平先生
【AMED-CREST:ストレスへの応答と疾患発症に至るメカニズムの解明 領域】2024年 10月採択
【採択課題名】リソソームストレス応答の破綻による神経・筋疾患発症機構の解明と超早期バイオマーカー開発
本学 生化学講座 教授(※1)(兼)オートファジー・抗老化研究センター長(※2)の中村修平先生が日本医療研究開発機構(AMED)の令和6年度 革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)に採択されました。
AMEDは日本における医療分野の研究開発およびその環境整備の中核的な役割を担う機関です(※3)。AMEDによる革新的先端研究開発支援事業では、国が定めた研究開発目標の下、革新的な医薬品や医療機器、医療技術等を創出することを目的に、組織の枠を超えた時限的な研究体制を構築し、画期的シーズの創出・育成に向けた先端的研究開発を推進するとともに、有望な成果について研究を加速・深化します(※4)。この事業は、ユニットタイプ(AMED-CREST)、ソロタイプ(PRIME)、ステップタイプ(FORCE)、インキュベートタイプ(LEAP)の4つの研究タイプから構成されています。
今回中村先生が採択された研究開発領域「ストレスへの応答と疾患発症に至るメカニズムの解明」は令和5年度に決定され、ヒトが生活する中で受ける様々なストレスを起因とした疾患の発症予防を目標に、細胞レベルと個体レベルを統合した研究を進めています(※5)。
中村先生を代表とする研究チームの採択課題「リソソームストレス応答の破綻による神経・筋疾患発症機構の解明と超早期バイオマーカー開発」について、中村先生にお話をお伺いしてきました。
※1:生化学ホームページ:https://bioch.naramed-u.ac.jp/
※2:オートファジー・抗老化研究センターホームページ:https://naramed-autophagy.jp/
※3:AMEDホームページ:https://www.amed.go.jp/aboutus/rinen.html
※4:革新的先端研究開発支援事業ホームページ:https://www.amed.go.jp/program/list/16/02/001.html
※5:研究開発領域「ストレスへの応答と疾患発症に至るメカニズムの解明」ホームページ:https://www.amed.go.jp/program/list/16/02/001_19.html
(1)今回の研究課題についてご紹介いただけますか。
→今回の提案では、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症に代表される神経・筋疾患という病気を標的とし、これらの発症機序を解明し、その知見に基づいた早期診断法の開発を目指しています。この病気は、脳または神経系の神経細胞あるいは筋肉細胞自体に異常を生じ、認知機能、運動機能、感覚機能の障害が徐々に進行する病気です。これらの病気の多くは今でも原因が不明のため難病に指定されています。我々が注目したのは細胞内小器官のリソソーム(ライソゾームとも呼ばれている)です。体のあらゆる細胞の中にあるリソソームは、細胞内の様々な生体物質を分解する「細胞の清掃工場」として働きます。神経・筋疾患の患者さんの細胞ではリソソームに病理組織学的な異常が頻繁に観察されます。
私たちはこの数年間でリソソームストレス応答(あるいは、リソソーム損傷応答とも呼ばれています)という細胞内の新たなストレス応答に関する研究を進めてきました。リソソームは様々なストレス(要因)によって損傷を受けますが、壊れたままだとリソソームの中から水素イオンや分解酵素など細胞にとって有害な物質が漏れだして、細胞障害ひいては種々の疾患や個体の老化につながります。我々を含めた最近の研究から、リソソームストレス応答には大きく3つのプロセス:リソソームの①修復(*1,2)、②分解(*3,4,5)、③新生(*6)が関与することが分かってきており、これが損傷を受けたリソソームに対処し恒常性の維持に働いています。これらの機能がなくなり損傷リソソームが細胞内に蓄積すると、例えばパーキンソン病で見られるαシヌクレインの凝集体が周りに伝播しやすくなったり(*5)、個体の老化が進むことを共同研究者の先生方と明らかにしてきました(*1)。
このような研究成果から、神経・筋疾患の背景にはリソソームストレス応答の破綻があるのではないかと着想しました。最近では国内初のアルツハイマー病の薬が発売されその高額な値段とともに世間をにぎわしたことも記憶に新しいところです。この薬はアルツハイマー病で見られるアミロイドベータの蓄積を抑えることで、病気の進行を遅らせることが期待されます。しかし、神経変性はすでに始まっているため、根本的な治療薬とは言えません。今回の提案ではリソソームストレス応答の分子機構を解明し、その成果に基づいて神経・筋疾患の超早期診断法の実現を目指しています。これにより、疾患の発症自体を予防できるのではないかと期待しています。
*1:Ogura M et al., EMBO Rep, e57300, (2023).
*2:Cui M et al., PNAS, 121, e2306454120 (2024).
*3:Maejima et al., EMBO J, 32(17):2336-47 (2013).
*4:Oe Y et al., PLoS Genet, 18(6), e1010264, (2022).
*5:Kakuda K et al., PNAS, 121, e2312306120 (2024).
*6:Nakamura S et al., Nat. Cell Biol., 22(10): 1252-1263, (2020).
(2)AMED-CRESTで研究をする意義
→私は以前にAMEDのソロタイプ(PRIME)に採択され、研究する機会をいただきました。AMEDの事業にはその円滑な推進のためプログラムスーパーバイザー(PS)とプログムオフィサー(PO)が配置されており、革新的先端研究開発支援事業ではPSを研究開発総括、POを研究開発副総括としています(**1)。PS、POは各領域の第一人者で、私がPRIMEで研究していた時もPS、POから有用なフィードバックをたくさんいただき、自分のサイエンスが大きく発展するのを身をもって体験できました。また、領域の目標達成に向け、他のPRIME採択者ばかりでなくCREST採択者の研究者とも領域内で連携を深めることができました。このような国内の一流研究者と直接議論することで、人的ネットワークを形成できたことは研究者として大きな財産となりました。現在では、よい研究をしていこうとするとどうしてもビッグサイエンスになります。研究者一人で全てを完結することはできません。こんな実験がしたい、あんな材料が必要だと思った時に、高い専門性を持つ研究者にすぐにアクセスできることはAMEDのようなプログラムの中で研究する大きなメリットと言えます。
このようなAMED-PRIMEでの経験から、さらなる研究の展開に向け今回AMED-CRESTに挑戦し、無事採択され大変嬉しく思っています。本研究グループは私を代表とし、分担には本学 脳神経内科学教授(兼)オートファジー・抗老化研究センター副センター長の杉江和馬先生と大阪大学大学院医学系研究科神経内科学助教の池中建介先生と新潟大学脳研究所総合脳機能研究センター教授の島田斉先生が参加されています。分担者は基礎研究をしつつ神経内科医として臨床にも造詣が深い3人です。リソソームストレス応答の分子機構を解明する基礎研究とその知見を早期診断や治療につなげる臨床研究を両輪として進めていける素晴らしい体制を組むことができました。
お話ししたように、AMED-CREST、AMED-PRIME、科学技術振興機構(JST)-さきがけ などの競争的資金を獲得することは、研究者としてサバイブする(生き残っていく)上でとても貴重な経験になると思います。特に若い研究者は積極的に挑戦して欲しいと思います。最初からAMED-CRESTはハードルが高いかもしれませんが、PRIMEやさきがけなど個人タイプのものから業績を積んでいくことで採択される可能性が出てくると思います。是非、このようなグラントを獲得し、素晴らしい研究者に成長していってもらいたいと、若い研究者にエールを送ります。
**1:AMEDホームページ:https://www.amed.go.jp/program/list/16/02/001.html
<編集後記>
生化学講座の教授、オートファジー・抗老化研究センター長、昨年度までは⽂部科学省 学術変⾰領域研究B「ポストリソソーム⽣物学:分解の場から始まる⾼次⽣命現象の理解」の領域代表者を務めるなど、とにかくお忙しい中、インタビューの機会をいただき、中村修平先生には感謝いたします。リソソームは「細胞の清掃工場」という教科書的な知識はありましたが、中村先生が見出されたリソソームストレス応答が様々な疾患とつながる可能性をお伺いし、世界の最先端で起こっているサイエンスの臨場感を味わうことができました。未発表のデータを交え、詳しくご解説いただいた内容を本稿では全てお話しできないことが残念ですが、近い将来それらを改めて皆様にご報告できる日が楽しみです。
インタビューアー:研究力向上支援センター特命教授・URA上村陽一郎
URA 垣脇成光
お問い合わせ
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